
今年の秋のジビエは、去年とはっきり様子が違います。
秋田の猟師さんに聞くと、今季の月の輪熊の駆除数は去年の3分の1ほど。数字を聞いて驚きました。
一方で穴熊は、脂ののりが例年より早い。うちは果樹園に罠をかけてもらっているので、果樹の実りの良し悪しが肉にそのまま出ます。今年は果樹園が豊作なのだと思います。
熊は減り、穴熊は当たり年。それが2026年の秋です。

東京・人形町と浅草で、年間を通してジビエを出している「ジビエ料理 あまからくまから」の店主です。この秋に食べてほしい肉を10種選びました。順位は私の好みではありません。食べた直後に、お客様が実際に口にした言葉を基準にしています。
1位 穴熊(アナグマ)— 「脂がとろける」「こんなに脂が多いのにさっぱりしている」
穴熊を食べたお客様が、ほぼ必ず口にする言葉がこの2つです。年に100頭を仕入れて約3,000食をお出ししていますが、この反応は変わりません。
穴熊の脂には、獣脂の重さがまったくありません。口に入れると溶けて、後に残らない。体重4〜15kgと小さな動物ですが、脂が多いぶん可食部は7割ほど取れます。
今年は脂ののりが早い
穴熊の脂は、例年ならお盆を過ぎた頃からのり始めて、9月の終わりに本格化します。今年はそれが前倒しになりました。理由は果樹園の豊作だと考えています。
穴熊は果樹が大好きで、果樹園を荒らして駆除される個体が多い。だから私たちは果樹園に狙いを定めて仕入れています。うちに届く穴熊は、8月の終わりから冬にかけて、こう産地が移り変わっていきます。
巨峰 → いちじく → シャインマスカット → 柿 → みかん

果樹園を追いかける仕入れです。なかでも柿の時期は、糖度の高い実を食べた個体が、季節的にもいちばん脂ののった状態で獲れます。10月から11月にかけての穴熊は、一年で最も良いものが揃います。
食べ方はすき焼き、角煮、炭火焼、たたき。角煮は下煮に2時間、そこから本煮に5時間かけます。たたきは65℃で60分の低温調理。脂の甘さがいちばんわかりやすいのは、すき焼きです。
穴熊の脂がなぜ甘いのかは、別の記事に詳しく書いています。
2位 エゾ鹿の心臓のたたき — 「おいしい」と必ず言われる一皿

うちの料理で、お客様の反応がいちばん外れないのがこれです。低温調理した鹿の心臓のたたき。
心臓と聞くと身構える方がいますが、レバーのような臭みも、モツ特有のクセもありません。緻密でしっかりした歯ごたえと、澄んだ旨味。食べた方は例外なく「おいしい」と言います。初めての方こそ試してほしい一皿です。
3位 エゾ鹿の厚切りステーキ — 厚さがそのまま評価になる

同じエゾ鹿でも、厚切りにして炭火で焼いたステーキは、評価の質が変わります。
鹿肉は脂が少なく赤身が主体なので、薄く焼くとパサつきます。厚く切って、中心に火が通りきる手前で止めると、噛んだときに肉汁が出て、赤身の香りが立つ。「鹿はパサパサしている」という印象を持っている方ほど、この厚さに驚かれます。
4位 熊肉 — 3分の1に減った年でも、東京で食べられます

冒頭に書いたとおり、今季の月の輪熊は、秋田の猟師さんの話で去年の3分の1です。
ただ、うちは仕入れ先を複数持っているので、店としての提供は特に変わりません。今季は秋田と岐阜の月の輪熊が中心です。岐阜は2026年から岐阜ジビエ認証が始まり、熊肉の流通が動き出しました。県の登録解体処理施設から仕入れています。
緊急銃猟が始まって1年、駆除された熊がどこへ行くのかについても書きました。
熊は一頭単位で仕入れて、部位ごとに料理を変えます。背ロース・肩ロースは焼きか鍋、ヒレは焼きかカツ、モモやランプはしゃぶしゃぶやすき焼き、前バラ・ウデ・スネは半日かけて煮込み、脂は鍋の出汁に使う。一頭を最後まで使い切る形です。
熊肉の味・におい・旬・選び方は、こちらにまとめています。
熊肉が初めての方へ

9月10日から「はじめて熊肉チャレンジコース」(全9品・14,800円税込)を始めました。熊肉だけに寄せると食べる楽しみが偏るので、穴熊やアライグマ、キョンといった有害鳥獣も組み合わせています。
5位 熊の手(熊掌) — 今のうちに食べておく肉

料理を出すと、言葉が出ずに「わー」と笑顔になる。熊の手はそういう料理です。年間300食ほどお出ししています。
ただ、この肉は年々手に入りにくくなっています。中国からの買い付けが増え、価格も上がり続けている。今後の値上げは避けられないと考えています。「いつか食べよう」と思っている方には、今季をおすすめします。
下煮に半日、そこから本煮に5〜12時間。大きさで仕込み時間が大きく変わるので、目が離せません。前足はコラーゲンと骨が多く、可食部は後ろ足のほうが多い。炭火焼で食べるなら後ろ足です。
【極・熊掌】コース(全9品・38,000円税込/1〜6名様)でお出ししています。
熊の手の味と、下煮に半日かける手間については、別の記事に書きました。
6位 みかん猪 — 「ほんとにみかんの味がする」

これも、お客様の言葉がそのまま説明になっている肉です。みかん畑で育った猪の脂には、柑橘の香りが移ります。
猪肉が苦手だという方の多くは、脂の重さと獣臭を思い浮かべています。みかん猪の脂は軽くて、香りが明るい。冷菜のたたきでお出しすると、猪という先入観が一度崩れます。
7位 ハクビシン — 「穴熊よりおいしい」

年に5頭しか入りません。体が小さく、木に登るので捕獲が難しく、多くは廃棄されてしまう動物です。
それでも順位に入れたのは、食べた方の言葉が強いからです。「穴熊よりおいしい」「次はいつ入荷しますか」。穴熊に匹敵する脂の甘さがあり、量が多くないぶん、穴熊よりさっぱりと感じます。果樹を食べている個体は本当に良い。
主にすき焼きでお出ししています。年間30食ほどなので、入荷したときだけの料理です。
ハクビシンという動物と、その脂の甘さは、こちらに詳しく書いています。
8位 キョン — やわらかくて、いちばん食べやすい

千葉で増え続けている外来種です。ジビエは硬いというイメージを持つ方が多いのですが、キョンは驚くほどやわらかい。クセもありません。
ジビエを食べ慣れていない方をお連れするとき、最初の一皿として安心して出せる肉です。
キョンとはどんな動物で、なぜ千葉で増えているのかは、こちらにまとめています。
9位 雉(キジ) — 北海道の若雉は、旨味があって食べやすい

北海道の就業支援施設で育った若い雉を使っています。これがとても好評です。
野鳥特有の血の匂いがなく、身がやわらかく、それでいて鶏にはない旨味がある。鳥のジビエの入口として、よくできた食材だと思います。
10位 カラス — 肉は硬い。でも旨味は濃厚

正直に書きます。カラスの肉は硬いです。放し飼いの地鶏のような、噛みごたえのある食感。
そのかわり旨味が濃い。ハシブトガラスは果物や木の実、畑の野菜に加えて小動物も食べるので、味が濃く風味も強く出ます。「高級な地鶏を食べているよう」というのが、私の正直な感想です。ハシボソガラスは山の木の実や畑の野菜を食べていて、地鶏そのままの味。レバーのような血の味がありません。食べやすいのはハシボソです。
夏は痩せた個体が多いので使いません。カラスを食べるなら秋です。皮が少なく可食部も鴨の3分の1ほどしかないので、うちでは炭火焼のみでお出ししています。
カラスを実際に仕入れて焼いている話は、こちらに正直に書きました。
番外編:店では出せない肉の話
山鳥 — ご希望はいちばん多いのに、飲食店では出せません
「山鳥を食べたい」というご要望は、実はどの動物よりも多くいただきます。ただ、飲食店では提供できません。猟師さん経由で手に入れて、ご自宅で召し上がっていただく形になります。
日本猿 — 猟師さんは「いいものばかり食べている」と言う
猟師さんに言わせると、「猿はいいものばかり食べるから、肉も美味しい」。実際に食べてみて、確かにおいしいと思いました。
ただ、これは抵抗を感じる方が多いだろうとも思っています。無理に勧める気はありません。こういう肉もある、という話として書いておきます。
今年の秋の結論

熊は3分の1に減り、熊の手は値上がりが続く。その一方で、穴熊は果樹園の豊作で当たり年になりました。
秋のジビエは、その年の山と畑の出来がそのまま肉に出ます。同じ動物でも去年と今年で味が違う。それが面白いところです。
ご予約・お問い合わせ
あまからくまから(人形町・浅草)は全席予約制のコース制です。この秋の穴熊、今季の熊肉、数の限られた熊の手は、それぞれ入荷状況が変わりますので、ご予約の際にお問い合わせください。
- 人形町店 03-5640-2121
- 浅草店 03-5828-6788
ジビエ料理店「あまからくまから」では、季節でご提供メニューが変わります🥩🌿
現在ご提供している料理は、各グルメサイトでご確認いただけます。
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