
ハクビシンは美味しいのか。結論から書くと、脂がとても甘く、当店の看板である穴熊(アナグマ)に匹敵します。鍋にかけると、お菓子を作っているときのような甘い香りが立ちのぼります。
ただしそう言い切れるのは「果樹を食べて育った、脂ののった個体」に限った話です。脂のない個体は、まったく別の食べ物になります。
東京・浅草と人形町でジビエ料理店「あまからくまから」をやっています。ハクビシンは年に5頭ほどしか入ってきません。その少ない肉を自分で捌き、すき焼きにして出してきた実感だけで書きます。
ハクビシンの味は? 脂の甘さは穴熊に匹敵する
ハクビシンでいちばん食べてほしいのは脂です。穴熊と同じように、火を入れると甘い香りが漂います。獣くささを想像して来られる方が多いのですが、実際に出すと、まず香りで驚かれます。
穴熊ほど脂の量は多くないので、口当たりはさっぱりしています。そのぶん肉質は固めで、噛みごたえがあります。脂の甘さとさっぱりした後味、この組み合わせがハクビシンの持ち味です。
お客様からいちばん多くいただく言葉は、この2つです。
- 「穴熊よりおいしい」
- 「次はいつ入荷しますか?」
穴熊は当店で年間3,000食ほど出る看板食材です。それより上だと言われるのですから、ハクビシンの脂は相当なものだと思っています。
年に5頭。ハクビシンがめったに手に入らない理由
当店に入るハクビシンは、神奈川と千葉から年間5頭ほど。これだけ美味しいのに、なぜこれほど少ないのか。理由は3つあります。
木に登れるため、そもそも捕獲が難しい
ハクビシンは木登りが得意で、細い足場も渡っていきます。地上にわなを仕掛けても、その上を通り過ぎてしまう。猟師さんにとって、捕まえにくい相手です。
体が小さく、肉が取れないため廃棄されてしまう
捕獲されても、多くは食肉にならずに処分されます。1頭あたりの肉が少なく、手間に見合わないからです。買い取る飲食店が少ないので、処理施設としても受け入れにくい。美味しさとは関係のないところで、ほとんどが捨てられているのが実情です。
脂ののった個体しか仕入れないため、さらに少なくなる
後述しますが、脂がない個体は味がまるで違います。そのため当店は、果樹を食べて育った脂ののった個体だけを仕入れています。結果として、年間の提供数は30食ほど。コース料理に組み込むことができず、入荷したときだけの一品としてお出ししています。
味を決めるのは「何を食べていたか」
ハクビシンは果樹が大好物です。猟師さんも、果物を仕掛けてわなにかけるのが一般的だと言います。畑や果樹園を荒らして捕獲された個体ほど、脂が甘い。これは穴熊とまったく同じ理屈です。
逆に、脂ののっていない個体は買わないほうがいい。これは失敗から学びました。以前、脂のない個体を仕入れてしまったことがあります。すき焼きにしても脂の甘さが出ず、結局すべてリエットなどの前菜に回すしかありませんでした。同じハクビシンでも、脂のあるなしで別の食材になります。
旬は、脂がしっかりつく秋から冬。この時期に、果樹をたっぷり食べた個体が入るのを待っています。
3〜4kgの体から取れる肉は、思っているより少ない
当店に入るハクビシンは、体重3〜4kgのものがほとんどです。可食部は6割ほど。さらに、すき焼きに使える「脂のついた部分」となると5割ほどまで減ります。
| 体重 | 3〜4kgが中心 |
| 可食部 | およそ6割 |
| 鍋に使える脂つきの部分 | およそ5割 |
| 年間の入荷 | 5頭前後(神奈川・千葉) |
| 年間の提供数 | 30食ほど |
1頭からすき焼き数人前。だから「今日はあります」と言える日が、年に数えるほどしかないのです。
部位ごとに食べ方を変えています
解体したらブロックに分け、脂の多い部分と赤身の多い部分で使い道を変えます。
| 部位 | 料理 | 理由 |
|---|---|---|
| ロース・バラ | すき焼き/たたき(低温調理) | 脂がのっており、甘さをそのまま味わえる |
| もも | 炭火焼/すき焼き | 赤身が多く、噛みごたえのある肉の味が出る |
| 端肉 | リエットなどの前菜 | 量が取れない部分を無駄にしないため |
たたきは低温調理で仕上げます。脂を味わってほしいので、使うのはロースとバラ。炭火焼は、赤身のももが向いています。
すき焼きで出している理由
いろいろ試したうえで、いまはすき焼きと炭火焼が中心です。単純に、この2つがいちばん喜ばれるから。
すき焼きにすると、割下の甘さと脂の甘さが重なります。脂が溶け出したところに肉をくぐらせると、ハクビシン本来の甘い香りがいちばんはっきり出る。肉質が固めなので、薄く引いて火を入れるすき焼きは、食感の面でも理にかなっています。
穴熊・アライグマと比べるとどうか
よく聞かれるので、正直に書きます。
味だけで言えば、ハクビシンと穴熊は甲乙つけがたい。どちらも脂が甘く、香りが良い。違いは脂の量で、穴熊はとろけるような濃厚さ、ハクビシンはさっぱりとした甘さです。そこに希少価値を足すと、ハクビシンのほうが「なかなか食べられない肉」ということになります。
同じ中型獣のアライグマは、この2種と比べると少し落ちる、というのが私の評価です。
安全に食べるために、当店がやっていること
ハクビシンにかぎらず、ジビエで大事なことは2つだけです。
- 必ず中心まで加熱して食べること。たたきも、低温調理で中心温度と時間を管理したうえで仕上げています。
- 正規の許可を持つ、信頼できる処理施設から仕入れること。当店は神奈川と千葉の施設から、1頭ずつ仕入れています。
ハクビシンというと、2003年に流行したSARSを思い出す方がいるかもしれません。当時、中国の市場で扱われていたハクビシンから近縁のウイルスが見つかり、中間宿主のひとつと考えられました。ウイルスの自然宿主はコウモリとされています。日本国内のハクビシンで発生が報告されたことはありませんが、いずれにせよ野生動物ですから、素性の分かる仕入れと十分な加熱が前提になります。
ご自身で捕獲した個体を食べることは、おすすめしません。解体と衛生管理は、専用の設備と許可があってはじめて成り立つ仕事です。
入荷したら、お知らせします
ここまで読んで「食べてみたい」と思われた方へ、正直にお伝えしておきます。ハクビシンは年に5頭、提供は30食ほど。予約ページに常時載せられる食材ではありません。
そのため、入荷のご連絡を承っています。下記までお電話いただき、「ハクビシンが入ったら連絡してほしい」とお伝えください。入り次第、こちらからご案内します。
- あまからくまから 人形町店 03-5640-2121
- あまからくまから 浅草店 03-5828-6788
「待たずに、あの甘い脂を食べたい」という方には、穴熊(アナグマ)をおすすめします。ハクビシンと同じ、果樹を食べて育った個体の脂。こちらは年間100頭を仕入れているので、秋から冬ならほぼいつでもお出しできます。
ジビエ料理店「あまからくまから」では、季節でご提供メニューが変わります🥩🌿
現在ご提供している料理は、各グルメサイトでご確認いただけます。
▼あまからくまから 人形町店 の予約はこちら
▼あまからくまから 浅草店 の予約はこちら
よくある質問
ハクビシンの肉は臭くありませんか?
果樹を食べて育った、脂ののった個体であれば、獣くささはほとんど気になりません。むしろ甘い香りのほうが立ちます。ただし脂のない個体は香りも味も乗らないので、仕入れの段階で選ぶことがすべてです。
穴熊とハクビシン、どちらが美味しいですか?
味は甲乙つけがたいです。脂の濃厚さなら穴熊、さっぱりした甘さと希少性ならハクビシン。当店のお客様には「穴熊よりおいしい」とおっしゃる方も少なくありません。
いつ行けば食べられますか?
旬は脂がつく秋から冬です。ただし入荷は年5頭ほどですので、その時期でも常にあるわけではありません。確実なのは、入荷のご連絡をお申し込みいただくことです。
どんな料理で出てきますか?
基本はすき焼きです。入荷量とご希望に応じて、たたき(低温調理)、炭火焼、リエットなどの前菜でもお出ししています。
生態・被害・駆除について知りたい方へ
この記事は「食べる」ことに絞って書きました。ハクビシンが何を食べ、どこから侵入し、どう捕獲されているのかは、別の記事にまとめています。
- ハクビシンは何を食べる? 食性・農作物被害・駆除の方法をジビエ店が解説
- みんなで食べて応援しよう!ハクビシン、キョン、「外来種駆除応援鍋」
- 「キョン」とはどんな動物?食べられるの?味や値段、東京で食べられるお店について専門家が解説
秋のジビエ全体のなかで、ハクビシンがどのあたりに位置するのかは熊は3分の1、穴熊は当たり年|2026年秋のジビエ ベスト10に書きました。

