
2025年9月1日、クマの「緊急銃猟」が始まりました。あれから1年。この秋、駆除される熊の数は、これまでで最も多くなるかもしれません。熊肉を扱う店の店主として、いま書いておきたいことがあります。
緊急銃猟が始まって、1年が経ちました
2025年9月1日、改正鳥獣保護管理法が施行され、「緊急銃猟」の制度が始まりました。人の生活圏に出てきたクマやイノシシに対して、市町村長の判断で発砲ができる制度です。これまで警察官の判断が必要だった場面で、自治体がより早く動けるようになりました。
施行から1年。緊急銃猟は2026年6月時点で12道県72件が実施され、その約6割を東北が占めています。秋田県の2025年度の捕獲数は、過去最多の2,882頭でした。東京都も約20年ぶりにツキノワグマの狩猟を解禁する方針で、2027年から年間34頭を目安に始まります。制度が動き出して迎える2度目の秋、駆除される熊の数は、これまでで最も多くなる可能性があります。
(参考:環境省「緊急銃猟ガイドラインの改訂について」/共同通信「クマ緊急銃猟、12道県で72件」)
駆除された熊は、どこへ行くのか
ここで、ひとつ知っておいてほしいことがあります。
駆除された野生動物のうち、ジビエとして食べられているのは全体の1割ほどと言われています。残りの多くは埋設か焼却です。熊も例外ではありません。
私は駆除の是非を語る立場にありません。人が襲われている地域があり、そこに住む人の安全が最優先であることは当然です。ただ、熊肉を扱う店の店主として、「殺して終わり」にはずっと違和感を持ってきました。せめて、獲られた命は食べ切りたい。それが私の考えです。
私たちがやっていること
あまからくまからの熊肉は月の輪熊が中心です。今季は秋田と岐阜の個体が主になります。お客様のご要望があるときは、北海道からヒグマも取り寄せます。
仕入れは一頭単位です。一頭で仕入れるということは、いい部位だけを選ぶことができない、ということでもあります。ロースも、モモも、スネも、脂も、全部が店に届きます。だから部位ごとに料理を変えます。
背ロースと肩ロースは、いちばん潰しの利く部位です。焼いてもいいし、鍋にも回せる。脂の甘さがそのまま出るので、初めての方には鍋でお出しすることが多い。ヒレは一頭からわずかしか取れないので、焼くかカツにして、その日いらした方に。モモとランプは薄く引いて、しゃぶしゃぶかすき焼きへ。前バラ、ウデ、スネはスジが多く、焼くと硬い。ここは半日かけて煮込みます。
そして脂。余ると思われがちですが、これが要で、鍋の出汁に落とすと味がはっきり変わる。捨てるところがないというより、捨てないための組み立てを毎季考えている、というのが正直なところです。
熊肉は、部位によっては高級和牛に匹敵する旨味があります。脂は甘く、ヒグマと月の輪熊では味がはっきり違います。一頭を使い切る料理の組み立ては、面倒ですが、この仕事の中でいちばん面白いところでもあります。部位ごとの詳しい話は熊肉の美味しい部位はどこ?に、栄養面の話は熊肉を食べて得られる効果にまとめています。
熊肉には、まだ物差しがありません
今季の当店は、秋田と岐阜の月の輪熊が中心になります。岐阜の仕入れ先は、県の「ぎふジビエ登録制度」に登録された解体処理施設です。食品衛生法の営業許可証や精肉の安全検査結果を県に提出し、登録を受けている施設です。
ただ、正直に書いておきます。この登録制度が対象にしているのはイノシシとニホンジカで、熊は入っていません。熊肉には、県や国が定めた衛生の物差しが、まだないのです。
だから私は、鹿と猪でその基準をクリアしている施設が、同じ手つきで捌いた熊を選んでいます。駆除される熊が増えることと、それを安心して食べられる仕組みが整うことは、本来セットであるべきです。仕組みが追いつくまでは、誰が、どこで、どう捌いたかを選ぶしかない。
(参考:岐阜県「ぎふジビエ登録制度」)
宣言します
あまからくまからは、駆除された熊を、東京で最後まで食べ切る店であり続けます。
この秋、「はじめて熊肉チャレンジコース」(14,800円・全9品)を9月10日から始めます。熊肉は初めて、という方のためのコースです。
「クマのニュースを見て、食べてみるべきか迷った」——その迷いごと、持ってきてください。
あなたにできること
難しいことは何もありません。
- 食べに来てください。それが一番の「利用」です。
- この記事を、クマのニュースを見て何か引っかかった人に共有してください。
- 秋田や長野には、駆除された熊を食肉にするために働いている処理施設があります。そこに関心を持ってください。
もっと知りたい方へ
熊肉の味やにおいについては、ジビエとしての熊肉の魅力・味・においを店主が解説で詳しく書いています。
熊が人里に出る理由や駆除の方法については、熊が人里に出る理由と被害・駆除の方法をご覧ください。
今季(2026年秋)の熊の入荷状況と、そのほかの秋のジビエについては熊は3分の1、穴熊は当たり年|2026年秋のジビエ ベスト10に書きました。
ご予約
人形町店:03-5640-2121
浅草店:03-5828-6788
両店とも完全事前予約制です。お電話またはグルメサイトからご予約ください。
熊肉がはじめての方には、2026年9月10日に始めた「はじめて熊肉チャレンジコース」(全8品・18,800円税込/人形町店)をご用意しています。羆と月の輪熊の食べ比べを中心に、穴熊やアライグマも一緒に味わっていただくコースです。
