鴨肉は肉食文化がまだ一般的でなかった江戸時代から、一部の地域で食用とされていたジビエです。例えば、石川県では野生の鴨を捕獲し、すだれ麩や季節の野菜と一緒に煮込む治部煮(じぶ煮)が、家庭料理として古くから伝わっています。
鴨肉は本当に美味しいのか、気になる方も多いでしょう。この記事では、鴨肉の美味しさや旬、おすすめの食べ方を分かりやすく紹介します。
鴨肉は美味しい?
鴨肉はやや臭みがあるものの、野鳥類の中では随一の美味しさを誇ると言われています。特に北海道や本州の標高が高い地域に生息する真鴨(マガモ)は、肉質がやわらかく、風味満点とされる高級食材です。
鴨肉は赤身が多く、やわらかい肉質が特徴
鴨肉は赤身を帯びており、やわらかい肉質が特徴です。特にロース(胸肉)は赤身が多く、ほのかな甘みがあります。一方、厚い脂肪に覆われたもも肉は、やや歯ごたえがあるものの、コクのある味わいが特徴です。
野生の鴨は全長50~60cmと大型の鳥類に分類されますが、肉は一羽から2~3人前しか取れません(※)。特にもも肉は、ロースよりも取れる量が少ないため、一般には手に入りにくいため、食べてみたい方は当店のようなジビエ専門店がいいと思います。
※ 農林水産省「野生鳥獣被害防止マニュアル【鳥類編】」p17
鴨肉の脂肪は融点が低いため、口の中でとろける
鴨肉は鶏肉よりも脂肪分が多く含まれます。日本食品標準成分表(八訂)によると、鶏のもも肉の脂質含有量は100g当たり13.9gであるのに対し、鴨肉は2倍以上の29gです(※1)(※2)。そのため、鶏肉と比べるとこってりとした味がします。
しかし、鴨肉の脂肪は牛肉や豚肉よりも融点が低く、体温より低い14度で溶けるため、口当たりはまろやかです(※3)。冷めても口の中で脂がとろけるため、美味しく食べられます。
また脂肪分が消化されやすく、胃がもたれません。上質な脂を楽しめるのも、鴨肉ならではの特徴です。
※1 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
※2 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
※3 秋田栄養短期大学「「鴨肉」に関する基礎知識」p7
近年は「ビューティーミート」としても注目
鴨肉は鶏肉と比べ、鉄分やビタミンB群などの栄養素が豊富に含まれます(※1)(※2)。
ビタミンA | ビタミンB1 | ビタミンB2 | ビタミンB6 | ビタミンB12 | 鉄分 | |
---|---|---|---|---|---|---|
鴨肉 | 46μg | 0.24mg | 0.35mg | 0.32mg | 1.1μg | 1.9mg |
鶏のもも肉 | 25μg | 0.14mg | 0.24mg | 0.28mg | 0.5μg | 0.9mg |
例えば、ビタミンB群は皮膚や粘膜の健康維持に関わり、肌や髪、爪を美しく保つために欠かせない栄養素です。ビタミンB1には、糖質をエネルギーに変えたり、代謝を促進したりする作用もあるため、ダイエット効果も期待できると言われています。
鴨肉は鉄分も多く、100g当たりの含有量は1.9mgです(※2)。さらに鉄分の中でも、貧血に効果的とされるヘム鉄の割合が多くなっています。ビタミンCが豊富なネギとの相性も良く、一緒に食べることで鉄分の吸収を促進できるでしょう。
このように鴨肉には、美容や健康に関わる栄養素が多く含まれることから、「ビューティーミート」としても注目を集めています。
※1 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
※2 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
いつ頃が鴨肉の旬?
鹿肉やイノシシ肉にも旬があるように、鴨肉にも旬があります。野生鳥獣は鳥獣保護管理法により、狩猟が可能となる期間が決まっているからです。
ここでは、鴨肉を美味しく食べられる旬について解説します。
鴨肉の旬は11月上旬から2月下旬にかけて
鴨肉の旬は、11月上旬から2月下旬にかけての冬の期間です。特に真鴨は、冬鳥として北方から渡ってくるため、日本では冬にしか姿を見ることができません。
食用とされる野生鴨には、カルガモのように日本全国に分布し、1年中繁殖を行う種類もあります。しかし、真鴨やカルガモのような狩猟鳥獣は、以下のとおり狩猟期間が決められています(※)。
地域 | 狩猟期間 |
---|---|
北海道 | 毎年10月1日~翌年1月31日(猟区内:毎年9月15日~翌年2月末日) |
北海道以外の区域 | 毎年11月15日~翌年2月15日(猟区内:毎年10月15日~翌年3月15日) |
真鴨やカルガモの他にも、コガモやヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモなどの野生鴨が、鳥獣保護管理法施行規則により狩猟鳥獣に指定されています。そのため、ジビエの鴨肉は狩猟が解禁される11月上旬から2月下旬の期間に提供されることが一般的です。
有名店で一年中鴨肉を食べられる理由は?
老舗の蕎麦屋など、一年中「鴨肉」を食べられるお店もあります。しかし、旬の時期以外に提供される鴨肉は、野生の鴨ではなく、合鴨(アイガモ)である場合がほとんどです。
合鴨とは、野生の鴨とアヒルを交配させ、家禽化した飼育鴨です。鴨が田んぼの除草を手伝う「合鴨農法」で名前を聞いた方もいるでしょう。実は、市場に流通している鴨肉のほとんどは、飼育された合鴨です。
合鴨も食べやすく、脂が乗って美味しいお肉ですが、野生の真鴨とは風味がまったく異なります。真鴨を使った本格的なジビエ料理を食べてみたい方は、当店をご利用ください。
鴨肉の美味しい食べ方
鴨肉は鹿肉やイノシシ肉とともに、古くから食用とされてきたジビエです。江戸時代には、鴨肉の臭みを取るため、セリと一緒に煮る調理法が一部の地域で知られていました。
鴨肉は独特の風味やクセがあり、鶏肉よりもしっかりとした味わいがあることから、鍋料理に向いていると言われています。野菜との相性も良く、特にネギやゴボウと合わせると絶品です。
ここでは、鴨肉の美味しい食べ方を2つ紹介します。
鴨鍋
1つ目は、鴨肉の定番料理である鴨鍋です。鴨肉は晩秋から真冬にかけて旬を迎えるため、体の隅々まで温まる鍋料理がおすすめです。
鴨肉の良質な脂が鍋の出汁に溶け出すため、締めのご飯やうどんも美味しく食べられます。特に鴨のもも肉は、脂肪分が多く筋も入っているため、鍋料理やすき焼き、煮込み料理にするとよいでしょう。ネギやセリと一緒に煮込むと、野性的な風味が緩和され、ジビエ料理が初めての方でも楽しめます。
鴨のロースの場合は、比較的臭みが少ないため、鴨しゃぶ鍋がおすすめです。薄くスライスしても、合鴨にはない濃厚な旨味を感じられるでしょう。
鴨の治部煮(じぶ煮)
2つ目は、石川県を代表する郷土料理である治部煮(じぶ煮)です。治部煮とは、鴨肉をすだれ麩や季節の野菜と一緒に煮込んだ料理を指します。
治部煮は江戸時代から伝わる武家料理で、その発祥には諸説あります。例えば農林水産省のホームページでは、キリシタン大名の高山右近が宣教師から教わったという説や、豊臣秀吉の兵糧奉行を務めた岡部治部右衛門が名前の由来となった説など、さまざまな説を紹介しています(※)。
治部煮の調理では、鴨肉を大きくそぎ切りにし、小麦粉をまぶすのが特徴です。小麦によって鴨肉の旨味が閉じ込められるだけでなく、出汁にとろみが付きます。
また石川県の特産品であるすだれ麩も、治部煮に欠かせない食材です。すだれ麩は生地に米粉が含まれているため、独特の食感があり、出汁がよくしみます。
治部煮は寒い時期でも体が温まるため、後に一般庶民の間でも、秋冬ごとの家庭料理として親しまれるようになりました。
このように鴨肉は、鍋料理にすると美味しく食べられます。普段食べている合鴨ではなく、野生の鴨肉を食べてみたい方はジビエ専門店に行ってみましょう。
ジビエレストランの「あまからくまから」でも、12月から2月まで真鴨の鍋を提供しているため、ぜひご予約ください。
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